志楽トピックス

縄文土器は5,000年以上呼吸している!

2018年8月28日 ニューズレター
志楽ニューズレター第八号

縄文土器は5,000年以上呼吸している!

―川崎・矢向で初めて縄文中期の土器を展示―

グループダイナミックス研究所所長 柳平 彬(さかん)

 

私は、子供の頃、縄文土器に囲まれて育ったとも言えます。目黒区三田の自宅の北側のトイレから出た所の廊下には無造作に縄文土器や縄文時代の石柱や石臼が置いてあったのです。走り回るのに足につまずき邪魔で、何でこんな石や土器が置いてあるのか不思議に思ったこともありましたが、そのうち慣れたせいか、石柱や土器を避けたりまたいだりして、走りまわるコツを身につけ、気にならなくなりました。当事は、第二次世界大戦が終わって、父の生まれた信州の疎開先から目黒の家に戻り、家の前の畑で焼夷弾の筒をカナツチでたたいて、中の油を出して遊んでいた時分ですから、焼け野原の畑や藪の中で遊んでいた方がおもしろく、土器などには全く興味を持っていなかったのです。それでも中学生ぐらいになると、毎年夏休みは郷里の長野県茅野市豊平の塩之目村で過ごし、午前中に土蔵の中で夏休みの宿題を終えると、弁当を持って一つ上の村の親戚の農家に行るのが楽しみでした。また父から同じき、馬を引いたり乗ったりす村の出身で考古学者の宮坂英弌さんの考古館に行くように言われ、日焼けのせいか顔はしわだらけで古武士のような風格のある宮坂さんからひとつひとつ丁寧に土器の説明を聞かされた思い出があります。

宮坂先生は、昭和15年から当時としては世界でも珍しい縄文集落の全面発掘を行いました。また昭和61年には茅野市の棚畑遺跡が発掘され、今から約5,000年前といわれる縄文時代中期のものと思われる膨大な量の優れた資料が出土しました。その中に全長27センチ、重量2.14キロの妊婦の土偶がありました。この土偶は、八ヶ岳山麓の土偶の特徴と造形美を合わせ持つことや、当時の精神文化を考えるためにも貴重な学術資料であることから、平成7年に国宝に指定されました。「縄文のビーナス」の愛称で親しまれるこのわが国最古の国宝は、現在では茅野市豊平の「尖石縄文考古館」で見学できるようになりました。

 

川崎の「志楽の湯」の土地も縄文時代から

「志楽の湯」のこの川崎・矢向の地は、むかし縄文の森でした。その後田んぼとなり、工場になったのですが、原点に戻り縄文中期の森を想像し、設計図を描き、和の原点である縄文の心を形にしようとこの「志楽の湯」を創りました。九州・阿蘇の黒川温泉近くにある山の上の雑木林からコナラを中心とした自然木を運び、露天風呂は、信州・八ヶ岳の安山岩で創りました。更に「志楽の湯」コンセプトパンフレットの表紙にもなっている、縄文土器の実物をぜひ皆さんにもご覧いただこうと、今年1月16日から現物を展示することにしました。

 

展示場所は女湯と男湯のわかれ道にいたしました。防犯上は、展示品の周囲を完全に囲い密閉するのが一般的ですが、今回はあえて左右に空間を開けました。それは、土器が呼吸できるようにするためです。自然界では木や土も呼吸しています。ならば土で作られた土器も4,000~5,000年もの間地中でずっと呼吸し続けてきたはずです。その時を超えた生命力を自然のままにご覧いただこうと考えたのです。また、信州竹屋味噌の藤森郁男社長から戴いた120年の歴史がある直径2mの味噌樽を味噌樽風呂として使っていますが、その底板の一部を半分に切って上下の枠にしました。

 

日本のオリジナルの原点は縄文中期の土器

一方、フロントのロビー正面に置かれているのが、岡本太郎氏の作品「縄文人」です。岡本太郎氏は、日本においてただ一つすぐれた芸術性と日本のオリジナリティー(独創性)のあるものは、縄文中期の日本人によって創られた縄文土器しかないと結論を出し、縄文土器の中に日本民族の生命力のオリジンを発見したのです。平成元年(1989)12月24日、雪の降るクリスマス・イブの日に一緒に尖石考古館に「縄文のビーナス」を見に行ったことを思い出します。

AIAで独創力パワーアップ

隣接する川崎生涯研修センターでは、グループダイナミックス研究所主催の様々な公開研修が行われています。その中のひとつAIA(Adventures In Attitudes)心のアドベンチャーは一人ひとりの内  発的意欲を高める啓発研修プログラムで、現在までに参加者は41万人を超えています。そのAIA参加者が10万人を超えた1985年に、AIAの開発者であるロバート(ボブ)・コンクリン氏が夫妻で来日しました。その折一緒に蓼科を訪れた際、コンクリン氏は「この土地と縄文土器には、縄文人のパワーを感じる」と言われたので、記念に土器を贈呈しました。その土器は夫妻のご自宅玄関に独自のコーナーを設け、置いてありましたが、その後、夫妻は多くの人々に日本の縄文中期の文化の力強さと独創力を鑑賞できるようにと、シアトルのアートミュージアム(Seattle Art Museum)に寄贈されました。

 

 

志楽ニューズレター 第八号 2008年2月15日発行

企画:グループダイナミックス研究所

発行所:志楽ダイナミックス