志楽トピックス

地球の恵み、温泉は”いい友だち”

2018年8月7日 ニューズレター
志楽ニューズレター第十二号

地球の恵み、温泉は”いい友だち”

講演抄録「温泉の本当の良き、魅力とは」

 

志楽の湯創立五周年感謝企画の一環として、志楽健康セミナーが417日(土)午後2時より川崎生涯研修センターにて、講師に温泉評論家の石川理夫みちお氏をお迎えして開催されました。温泉の現状、温泉の大切な要素や温泉文化などについて幅広く語っていただきましたので、その概要を紹介します。

石川理夫(いしかわみちお)
1947年仙台市生まれ。東京大学法学部卒。温泉評論家、温泉プランナー。日本温泉地域学会副会長。著書に「温泉で、なぜ人は気持ちよくなるのか」「温泉法則」「温泉巡礼」など多数。

 

◆日本は、温泉地数・源泉総数が世界一

日本には、現在、宿泊施設を伴う温泉地が3,133ヵ所、源泉総数が約2万8,000あります。温泉地の数は世界一で、二位の中国は約3,000、3位のトルコは474、4位アメリカは約400となっており、今のところ日本は世界の温泉大国といえます。

韓国、中国、台湾などの東アジア諸国は今、温泉開発ブームで、特に露天風呂ブームです。韓国は、湯治場から観光型・健康志向の大型温泉施設ラッシュにあり、1985年に21ヵ所だった温泉地が2000年には122ヵ所に増加しています。中国は、北京や広東省、大連近郊、山東半島など経済開発が進む地域で、レジャー志向の大型温泉施設や露天風呂ブームになっています。台湾では、1999年の台湾温泉観光年を契機に、温泉を楽しむ若者が増え、今日では120ヵ所の温泉地があります。

近年、九州を始め日本の温泉地を訪れるアジアからのお客様が増えてきていますが、それぞれ自国内で温泉地が増えていけば、集客の面で日本の温泉地は影響を受けるでしょう。従って、これからは今まで以上に日本らしさを出して、日本ならではの味わいをアピールすることが日本の温泉地に求められます。

また、日本のお客様の好みも、かつての大型観光温泉地から自然の環境豊かな秘湯志向へ、いい温泉、源泉を味わえる所に行きたいという本物志向に変わってきています。さらに、ミニ湯治やプチ湯治がブームになっていることから、温泉で健やかになりたいという健康志向が伺えます。これからのお客様の温泉の好みの変化にどう応えていけるかが、温泉地の今後の課題になります。

 

◆温泉は十湯十色、お気に入りの温泉に出会う楽しみを持とう

温泉法により定義される「温泉」とは、①温泉源から採取されるときの温度が摂氏25度以上、または②別表(略)に掲げる19種類の物質のうちいずれか一つ以上が温泉水1kg中に規定の量以上が含まれていることの、どちらか一つを満たせばよいことになっています。

温泉の個性、持ち味を決める大切な四大要素についてお話します。成分、泉温、液性、湧出量の四つです。まず成分ですが、温泉に溶けている成分、いわゆるミネラル成分です。ほとんど無機物ですが、まれに有機物もあります。海藻などが腐植質となって、東京などで見かける黒湯の成分になっている例もあります。

泉温とは、温泉の温度ですが、その土地の年平均気温よりも著しく高い泉温を保って水が湧き出るわけですから、温泉は、やはり普通ではない、自然の恵みと考えるのが妥当だと思います。ただし、温泉は温かいものとは限りません。大分県の寒の地獄温泉は泉温13度という冷たさですが、立派な温泉です。温度よりもむしろ中身が大事なのです。

液性とは、いわゆるpH、酸性とかアルカリ性のことで、草津温泉に代表される酸性泉やアルカリ性単純泉など泉質名にも関係します。

湧出量は湧き出る温泉の湯量のことで、温泉のパワーともいえます。

これらを別の表現で言い換えれば、水分、温もり、ミネラル、エイジング(熟成)といったことになるのではないでしょうか。温泉はまさに地球の恵みといえます。私たち人間と同じ生きもので“十人十色”ならぬ“十湯十色”な存在です。温泉一般というのはないのです。温泉には皆個性があります。その持ち味を十分愛でてあげて、利用者はそれを味わい、楽しむことです。相性が合った温泉と出会い、キープすると、楽しめるでしょう。温泉に気持ちよく入り、いい影響を受ける。言わば、温泉はいい友だちと出会うのと同じことなのです。

 

◆温泉は五感全体で味わい、楽しもう。

温泉は「ふれる」「見る」「味わう」「かぐ」「聴く」の五感全体で味わい、楽しみたいものです。

「ふれる」というのは、源泉の肌触りを楽しむことです。文字通り自分の肌に合った温泉を選びましょう。

「見る」にはいろいろありますが、例えば温泉地や旅館のたたずまいや景観、浴室や浴槽の味わい、湯の色、湯の華などを見ることです。

「味わう」は、源泉を味わう、テイスティングですね。

飲泉できるところでは飲泉効果も期待できます。飲泉できないところでも、少し口に含んで舌で味わうことができます。

「かぐ」は、湯の香を楽しむことで、温泉のアロマテラピー効果が期待できます。

「聴く」は、温泉地の自然環境、風や川のせせらぎ、鳥のさえずりを聴いたり、湯口から注がれる湯音に心安らぐことができます。日頃人工的な音の洪水の中にいる場合は特に、自然の音にひたって感性をリセットするとよいでしょう。

 

◆なぜ、「湯上がりは美しくなる」の?

五感の中でも、とくに湯に「ふれる」ことが大切です。美肌効果が期待される美肌湯には、じっくりとふれましょう。ところで、なぜ、湯上りには「美しくなる」のか、その要因としては主に次のようなことが考えられます。

①転地効果で心身共にリラックス、解放感で表情がなごみ、いきいきする。

②新陳代謝が良くなって、疲れがとれる。

③全身の血行、顔の血色(明度)が良くなって、肌のくすみが改善する

④古い不要な角質を落とし、肌がすっきり艶やかになる。

⑤飲泉効果で胃腸の働きがよくなり、便秘が治る。
美肌効果が期待される泉質としては、まず古い角質を落とすアルカリ性の温泉が挙げられます。また、古い角質を柔らかくし、余分な皮脂など肌の汚れを落とす作用のある重曹泉(ナトリウム‐炭酸水素塩泉)や、硫酸イオンが肌のはりを保ち、石膏分が肌を柔軟になめらかにする石膏泉(カルシウム‐硫酸塩泉)や、不要な角質とメラニンを落とす作用のある硫黄泉などが挙げられます。
さらに、生理学的に肌を健康に保つ微量成分の働きも見逃せません。角質層の形成を促すカルシウムイオン、肌のバリア機能を改善するマグネシウムイオン、肌のかゆみを除き、肌荒れを改善する働きがあるシリカ(珪酸塩)などです。

 

◆温泉(地)は一番平和で安らげる場所

火山の多い日本列島に住む私たち日本人は、温泉とのかかわりが長く、その長い付き合いを通じて温泉文化を育んできましたが、温泉文化は時代による変化や海外の温泉文化と比較することも大事です。それぞれの温泉場の成り立ち、歴史からも温泉の本当の魅力、良さが見えてきます。例えば、日本では古くから裸混浴がむしろ当たり前だと思われ勝ちですが、実は江戸時代までは男女とも浴衣、次には湯ふんどしや腰巻着用で入浴や混浴していました。

もともと温泉地は湯治場から始まりました。その湯治場の共同湯が入浴の主な場で、その後宿に温泉を引湯して内湯ができていったのです。今でも古くから栄えた温泉地では、共同湯と温泉宿が共存しています。

湯治は日本だけでなくヨーロッパも同じでした。古今東西、温泉(地)に、人は敬虔な思いを抱いていました。日本でも欧米でも古くから神のいる神聖な場所として尊重し、温泉神と交信し、頼み事をしたり、願いや訴状を託したりしていました。また、アメリカ大陸では先住民が温泉場での戦や争いごとを禁じていましたし、ヨーロッパでは18世紀の七年戦争時の1759年には、ヨーロッパの4ヵ所の温泉地を「中立地帯」と宣言しました。さらに温泉は、人間だけではなく動物たちも平和に棲み分けて利用する大切な場所、一番平和で安らげる避難所(アジ―ル)だったのです。

温泉は、これからも心身をリラックスさせ、癒しを得ながら明日への活力をみなぎらせる場として愛されていくことでしょう。

 

 

 

志楽ニューズレター 第十二号 2010年5月20日発行

企画:グループダイナミックス研究所

発行所:志楽ダイナミックス